Handwerker 2018AW - ハンドベーカー

ASEEDONCLOUD
  • Photographer
    ...HIROMICHI UCHIDA(THE VOICE MANAGEMENT)
    Model
    ...YUI TAKADA(ALL RIGHT GRAPHICS)
    Editor/Writer
    ...AYAKO MASUDA

Vol.01
Pressman Shirt

グラフィックデザイナー
髙田 唯さん



普段着に適した、普遍的なワークウェアーを作り、シーズンによってほぼ変えることなくコレクションを制作してきたHandwerker。毎回、魅力を感じる仕事をしている方に着ていただき、撮影を行ってきました。
「せっかくいろいろな職人の方に着ていただくなら、1アイテムだけでも、その職業のためだけのアイテムをデザインしよう」と、今期から新たに、ひとつの職業の方とともに、作業するための服を作るシリーズをスタートします。

「ASEEDONCLÖUD」のロゴをデザインしてくださったグラフィックデザイナーの髙田 唯さんは、デザイン事務所と並行して活版印刷の工房を運営。名刺をはじめ、ショップカードやポストカード、封筒などの印刷を請け負っています。500年以上の歴史を持つとされる活版印刷は、鉛活字を組み合わせて作った版で印刷する古典的な技法。凹凸の手ざわりやインキのかすれに味わいが感じられ、手にする人に強い印象を残します。
整然としすぎず、どこかひっかかりを感じるデザインで多くの人を惹きつける髙田さんに、50年ほど前にドイツで作られた活版印刷機を動かしていただきながら、活版印刷のこと、仕事や服について、お話をうかがいました。







----------グラフィックデザイナーを目指されたきっかけは?

バスケに熱中していた学生時代、絵を描くのは好きでしたが、勉強は苦手でした。高校受験に失敗して、一学期だけ夜間部に通うことになったのですが、僕にとってはこれがよかった。やんちゃな人、かなり年上の人、いろんな人がいて、おもしろくて。当時はモヤモヤもしましたが、外れるっていいな、こういう世界があるんだなと思えたんです。
将来、どうしたいかを明確には考えていませんでしたが、その後、グラフィックデザイナーの父(髙田修地さん)のすすめでデザインの専門学校に入りました。学校は、「これだ」「これしかできないかもしれない」と思うほど楽しかった。学校以外でも、朝は田中一光デザイン室でアルバイトをし、あらゆる展示に出かけたり、過去の作品集を見たりして、絶えずデザインに触れていました。幼いころから仕事をする父を見ていて、大変そうだなとは感じながら仕事内容はよくわかっていませんでしたが、ずっとデザインの本や道具が身近だったので、やはり影響はあると思います。
今、デザインは、仕事というより、自分ができること、得意なことをやっているという感覚。お金を稼ぐことは大事ですが、自分の本領を発揮してお金をもらえてありがたいと思っています。

----------デザインする上で大切にしていることは?

大切にしているのは、その人の思いをちゃんと受け止め、理解すること。デザインは感覚的に作っていくように思われますが、まず相手が何に困っているか、どうしたいかを引き出すのが重要。効率よく、無駄なく、考えをまとめてあげるのが自分の役割でもあります。カウンセリングに近いですね。目的や用途だけでなく、人柄、服装やたたずまい、声、身長、話すペースなどから総合的に判断し、合うデザインを見つけていきます。

2008年ごろ、デザイナーの玉井さんからご連絡をいただき、「ASEEDONCLÖUD」のロゴと下げ札、DMのデザインを依頼されました。同世代だし、クラシカルなものと向き合っている同士、合うんじゃないかと思いましたね。下げ札は玉井さんの要望でろう引きの紙を使い、活版印刷でロゴを刷っています。
玉井さんの場合も、会って話し、何のために服を作っているのか、今後どうしていきたいかを聞き、くせのないデザインにしよう、長く使えるものにしようと考えていきました。

----------惹かれるのはどんなデザインですか。

街でよく見る表示や看板が気になってよく見るのですが、例えば駅なら、駅員さんが必要に迫られて作った張り紙は、純粋に「伝える」という目的で作られているから、美しさやととのえなきゃという気持ちが入っていない。ととのえられたものを窮屈だなと思い始めた時があって、その生っぽさ、“天然”のグラフィックデザインの力強さに惹かれます。僕の作るデザインもそうでありたいと思っています。





----------なぜ活版印刷を始められたのですか。

2007年に開催された「活版再生展」のアートディレクションを担当したご縁で、会期後に活版印刷機を譲り受けました。もともと興味はありましたが、深く知らず、おもしろそうだなと思って後先を考えずに(笑)。置ける場所を探していた時、「歴史あるものを残してほしい」と名乗りを上げてくださった会社の一角に、スペースを借りることができました。運がよかったですね。印刷のやり方は、展示の際にお世話になった職人さんのもとに足を運んで相談したり、作業を見せてもらったりして覚えました。

----------活版印刷の方法を教えてください。

まず、ポイント(文字の大きさ)ごとに並べられているひらがな、カタカナ、アルファベットの活字を文選(棚から活字を順に拾い、文選箱という小箱におさめること)します。職人さんは、指先に目がついているんじゃないかというくらい早いですね。その後、ステッキという道具を使って文字を組みつけ、固定し、印刷を行います。印刷作業は、力はまったくいらないのですが、左手はふだん使わない動きなので慣れるまでに時間がかかりました。何度か刷ってみて調整を重ね、文字詰めや位置などを確認し、目的のところにたどり着くまでには、若干時間がかかります。





----------活版印刷の魅力はどんなところですか。

印刷に関しては、活版ありきの印刷物を受注しています。活字は、鉛でできているので摩耗してしまいますが、今は作っている会社がほぼないので、大切に使っています。書体は限られるし、決まった中から選んで作るのですが、限られた中でできる美しさがあります。
活版印刷をやっているのは、凸凹やかすれを感覚的にいいと思う気持ちと、不便で手間がかかるこの技術を意識して残していこうという気持ちがあります。時代に取り残された印刷機で、今後進化はしませんが、インクが乗って、圧力がかけられ、目の前で確実に印刷されるということにほっとするんです。







----------今回、一緒に作った服で作業していただきましたが、いかがですか。

印刷は誰も見ていない作業ですが、常に緊張感を持っていたいと思っていて、以前からユニフォームがほしかったんです。こちらから伝えたのは、①インクを扱うから汚れやすいので、汚れが目立たない黒に ②着脱がしやすい仕様に ③作業中に袖が邪魔にならないように ④道具を入れるポケットは、かがんだ時に中身が落ちないように後ろに ⑤校正に使う赤ペンと紙を切るカッターが入る胸ポケットを、の5点。ボタンはスナップボタンなので、脱ぎ着がとにかく楽。袖はリブにしてもらったので、落ちてくることがありません。後ろのポケットも、ピンセットを文字の詰めや位置の確認に使った後、無意識に手が行きましたね。とても機能的で動きやすいし、今までにない服。すごくうれしいです。

今回、玉井さんに要望を伝えて服を作ってもらいましたが、話している間に、玉井さんの頭の中ではこの服ができ上がっていて。自分がふだんやっている作業と似ているなと思いました。これまでの経験を総動員して、頭の中で要素を組み立てていく。デザインとはそういうものだと思います。
今、大学で教員をしていて、教員には「こうじゃなきゃいけない」と教える人が多いと感じますが、それをいかに壊すかが自分の使命だと思っています。先入観より、目の前にいる人が、何に感動し、何に引っかかって、何に引っかからないのかを大切にすること。時代の流れや流行りは頭に置きますが、枠にははめたくない。枠にはめるのは楽ですが、新しい発想につながらないので、いつでも柔軟でいたいです。



髙田 唯
グラフィックデザイナー。2006年にデザイン事務所「Allright Graphics」を設立。翌年に、活版印刷工房「Allright Printing」を発足。ロゴやサインなどのマークやタイポグラフィーをはじめ、ポスターや本、パッケージやWebなどのデザインを手がける。東京造形大学准教授。